蒼ちゃんが仕事に出かけていって玄関の扉が閉まる。その音を聞いて意識を手放していこうとするとき部屋の扉が開く音がしてでも眠たくって、忘れ物を取りに来たのだろうと目を瞑ったままでいた。でも、「姉ちゃん。いい?」と声がして蒼ちゃんではなく颯介なのだと分かって、「んー?」と半分意識を飛ばして返事をした。「姉ちゃん中絶したの?」というのが夢の中で聞こえたぽかぽか眠りかけたけどその意味を解読した脳ははっと目を開けて、「え?」と聞き返して颯介と目が合った。「鍵借りようと思って鞄探ったときに領収書が残っているの見つけちゃって。」颯介は悲しい顔をしていたけどあたしは知られてしまったのを現実と受け止められずに瞬きを何回かしたけど目の先に広がっている景色は同じで、「蒼ちゃんには言わないでね。」と空白ののちに言った。「なんで?蒼さんとの子じゃないの?」と悲しそうにしている颯介はなんで悲しそうなんだろう。「そうだよ。」「じゃあなんで言わなかったの。」颯介は弟でしかも性的ないじめにあって高校中退とかいう訳ありな感じの弟で颯介の前では姉ぶっていなければいけないように思うのに、「産んでって言われるのがこわかったから。」と答える寝起きの口は正直だ。「じゃあ産みたくないならなんで避妊してなかったんだよ。」颯介の顔がぐにゃんと歪んで変だ。「なんでだろうなあ…。」と言ってあたしは止まった。たぶん、蒼ちゃんは子どもができてもいいって思っていたから。でもあたしはなんでなんだろう。「分からないなあ。」と笑うと、それに反して颯介は「やめてくれよおおお。」と叫んだ。広くはないけど蒼ちゃんが広い家に住みたいと言って選んだ部屋にその叫び声が響き渡って、それから颯介は「俺、姉ちゃんのことが好きなんだよおお。」と言ってさめざめと涙を流した。何それ何かがおかしい。今自分がどんな絵本のどんなページの中にいるのかがよく分からなくて、「あたしも颯介のことは好きだよ?」と言ってみると、「そういうことじゃなくて。違うんだよそういうことじゃないんだよ。」と颯介は息を荒くするといまだベッドの中にいるあたしの口を塞いだ。柔らかいなんだこれあたしよりも柔らかいぽよんとした唇の感触があってそのあと柔らかい舌が入ってくる。「なんで。」口をふさがれていて上手く声にもならないけど小さな声で抵抗すると、「俺は姉ちゃんが好きだからだよ。」と顔を少し離して颯介が言って、「ごめん、ごめん姉ちゃん、でも蒼さんとつけないでやってたんでしょ?そんなのさあ駄目だよ。」と言いながらズボンを脱いでパンツを脱いで屹立したちんこをあたしに向けた。そのちんこは蒼ちゃんのそれより大きいぐらいでぎょっとしたけどまじかよふざけんなよ何のエイプリルフールだよもしくはトリックオアトリートかお菓子をあげなかったからいたずらしてんのかって思うけど、でも結局のところあたしはあたしがどうでもよくて颯介が布団を捲ってあたしのショートパンツとパンツを脱がせてあたしの穴にちんこを入れようとするのを見ていた。不思議だ。止めた方がいいのかなと思ったけれどなんだかそうする気にもなれなくてそれより「前に高校で何されてたの?」という質問が浮かんだ。今まで触れてこなかったことの封をふっと切ってみるとあたしに跨がりかけたまま颯介は動きを止めて「色々えぐいやつだよ。」と苦笑いした。「色々えぐいやつって何。」そう尋ねてみるあたしは颯介がこんなことをして踏み込んできたぶん颯介の池の底も覗いてみたいと思ったのかもしれない。「ちんこ舐めさせられたり入れられたり馬鹿みたいな言い方だけど何人かでレイプされて写真撮られたり色々だよ。そりゃやんなるでしょ高校やめたくなるでしょ本当男子校なんか入らなきゃ良かったよ。」自嘲的な笑い方をしてまだ入れていないちんこをあたしに向けたままそんな話をする颯介は妙だった。ちんこを指で弾くと「あっ。」と反応されたのが意外だった。現に今あたしを襲おうとしているからそうなのだろうけどあたしも颯介もぐちゃぐちゃで、あたしは可哀相ではないかもしれないけど颯介は可哀相だった。「そんなことされたのに颯介はあたしにそんなことしようとするの。」意地悪を言ってみると颯介は「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」と頭を抱えて悲鳴をあげるようにしたから可哀相になった。なんてこの子は脆いんだろう。あたしが颯介を拒否したらひび割れかけていたのが砕けてなくなってしまいそうだった。